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溶接したら何故ひずむ?

熱によりひずむメカニズムを計算式使わずに説明してみる

はじめに

金属材料を接合する技術の一つである溶接。熱により金属材料を溶かして接合するから溶接。その方法はいくつかありますがその詳細は別の機会に譲るとして、溶接を行うと必ず材料がひずみます。なぜひずむのか。金属材料を溶かすほどの熱量を加えることで、材料が熱変形するためです。なるほど。でもちょっと待ってください。溶接で熱を受けたときに熱膨張するのはその通りです。でもその後に常温まで冷却されて収縮しますよね。膨張した分収縮するので差し引きゼロ。あれ?歪は発生しないとなりませんか?参考までに熱膨張の計算式を示します。式が出てきちゃいましたがここはまだ解説本文ではないのでノーカン(ノーカウント)です。

 

ΔL=α×L×ΔT

 

ΔL :材料の変化量

α  :線膨張係数

L   :材料の元の寸法

ΔT :温度変化量

 

この式を見ると確かに熱が加わって例えば25℃から600℃になるとそれに比例して材料は変化、膨張します。繰り返しですが溶接後に25℃まで戻るため材料の変化は元に戻る理屈になります?あれ??やっぱりひずまない???

 

私はブログであまり理屈の部分を取り上げないのですが、今回は少し趣旨から外れて材料が溶接の熱により膨張収縮した結果、ひずみが発生するメカニズムの理屈を解説していきます。

余談ですが私があまり理屈の部分を解説しない理由はいくつかありますが最大の理由として理屈だけでは設計に活きないからです。例えば今回の解説で変形しない物体「剛体枠」という概念が出てきますが現実問題で変形しない物体と言うものは存在しません。つまりは設計に直接活かすことはできません。とはいえ理屈を知ればいろんな現象の根拠をもって設計できるので理屈は知っておくと役に立ちます。しかも頭の中に入れるのでジャマになりません。理屈は持ってるととてもいい武器でになりますね。

 

溶接歪が起こる理屈

変形しない物質、剛体枠を想定し剛体枠に囲まれた鉄棒です。
図1 剛体枠と鉄棒

図1に示すように剛体枠に挟まれた鉄棒を常温25℃から600℃まで加熱して再び25℃まで冷却することを考えます。剛体枠というのは変形しない物質を想定します。現実にはあり得ませんが機械の物理現象を説明するときにはよく使用される概念です。

 

横軸に棒の温度、縦軸に棒に生じる応力をとって、25℃から600℃まで加熱、25℃まで冷却したときの応力値をグラフ化すると図2のようになります。⓪⇒①⇒②⇒③⇒④それぞれの過程から歪が生じる理由を見ていきます。

 

剛体枠に挟まれた鉄棒を加熱したときの温度の変化と発生する内部応力の変化の関係図です。
図2 棒の温度と発生する内部応力の関係

⓪⇒①

25℃から温度が上昇していきます。それとともに鉄棒は熱膨張しようとするのですが、変形しない物体である剛体枠に拘束されているため膨張できません。これにより鉄棒内部に温度上昇に比例した弾性圧縮応力が発生します。そしてある温度に到達すると降伏します。これが①点です。この領域で加熱をやめて常温に戻せば応力はゼロに戻ります。いわゆる弾性変形領域です。

応力と降伏についてはこちらをご覧ください

材料力学基礎

 

 

①⇒②

圧縮降伏状態です。鉄棒を引きちぎったことがある方ならわかりますが引っ張る力がある一定を超えると鉄棒がクターっとなります。あの状態が圧縮で起こっている状態です。クターっとなることで発生している圧縮応力(の絶対値)が減少します。いわゆる塑性変形領域です。

ちなみに鉄棒はさすがに人力ではちぎれませんが、足場をしばったりするときに使われる番線だったらシノでくるくる縛り上げ続ければ人力で簡単にちぎれます。ちぎれる手前でクターっとなります。番線とシノをお持ちの方はぜひ試してみてください。

私はとある現場で明らかに元ヤンのボーシンから「おい春山!やってみろ!」と言われてやってみたところ番線がクターっとなってちぎれました。すると明らかに元ヤンのボーシンから「てめぇ、その感覚をおぼえてろよ!」と言われました。一生忘れません。

*ボーシン:親方のこと。boatswain⇒ボウスウィン⇒ボーシン

 

②⇒③

600℃に到達したのち、温度の下降に伴い鉄棒は熱収縮を始めて⓪→①と同じ傾きで圧縮応力が減少していきます。そして逆に引張応力が発生し始めてしまいます。圧縮で塑性領域まで到達してしまっているために起きる現象です。

 

③⇒④

さらに温度が下降していくといよいよ引張り方向での降伏状態となり25℃に到達したときには引張り残留応力が発生した状態になってしまいます。

おわりに

ここまでの例では変形しない物体である剛体枠に囲まれていたため鉄棒は全く変形できないものとして状態の変遷をみてきましたが、実際の溶接ではそのようなことはあり得ません。拘束されている部分もあれば自由な部分もあり、さらに拘束されていたとしてもその拘束部分も変形します。これらの影響を受けて溶接熱を受けているときに塑性領域までの変形が生じた結果、冷却後にひずみが残ることとなります。

全周溶接作業の様子を示した図です。
図3 全周溶接の様子

丸板を全周で溶接していくと、最初は全周フリーですが溶接が進むと拘束プールが増えていきます。これにより材料が伸びたいけど伸びることができなくなっていきます。

 

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