· 

ものづくり白書の公開は5月下旬~6月初旬です。2

◆ものづくり白書を読み解く2

◆2019年5月のニューストピックス

2019年5月7日、経団連の中西会長は定例会議で終身雇用について次のような発言をされました。「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている。」

その翌週、5月13日には日本自動車工業会の会長会見で豊田章男社長がやはり「終身雇用難しい」と発言されています。

この二名の発言は大きな話題となったため記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

ではこの二名。らたまたま、偶然、別々に、終身雇用に関して限界だとか継続が難しいなどと2019年の5月の7日、13日と1週違いで発表されたのでしょうか。その可能性もゼロではないでしょうが、私はそうではないと思っています。なぜこのタイミングで経団連トップと自動車工業会のトップが相次いで終身雇用について言及されたのか?ものづくり白書を紐解くと見えてくるような気がします。

 

◆ものづくり白書

ものづくり白書は毎年5月の終わりごろから6月のはじめごろにかけて発行されます

10年ほど前、技術士になろうと決めたときにやったことの一つに「ものづくり白書」を読むことがありました。技術士試験は社会課題からの出題もあるので世の中の動き、トレンドを把握するために白書は有効でした。経産省のHPから過去の分も含めて閲覧可能です。

経産省HP➡ものづくり白書

 

◆2019年版ものづくり白書

前のブログで2010年からものづくり白書で人材関連はずっとトレンドだったと書きました。直近のものづくり白書に注目すると、2018年版と2019年版には人手不足に関して興味深い調査結果と提言がなされています。

 

まずは2019年版から見ていきます。

 

2019年版ものづくり白書の第2章、第1節には「3.我が国製造業における人手不足の状況」と題し「(1)引き続き課題となる人材確保」が書かれています。そこから図1に就業者数の推移を引用します。これを見ると2012年を境に就業者総数は6300万人程度から6700万人程度まで増加しています(青い実線)。一方で製造業の就業者数はほぼ横ばいです(赤い点線)。これは製造業では効率化・自動化が進んでいることの現れという側面もあります。

 図2に日本電機工業会の「PLC 飛躍するプログラマブルコントローラ」から市場動向のグラフを引用します。近年では2009年と2012年に合計台数(青い実線)に落ち込みが見られますが、総合的にみてPLCの出荷規模は右肩上がりになっています。PLCとは自動制御を実現するための制御機器ですので、その出荷規模が大きくなっていることは製造現場の自動化が進んでいることを表していると言えます。

     ちなみに2009年はその前年に起きたリーマンショック、2012年はその前年に起きた東日本大震災の影響が出ているものと推測されます。

図1 就業者数の推移2019年ものづくり白書より引用
図1 就業者数の推移2019年ものづくり白書より引用
日本電機工業会、PLC飛躍するプログラマブルコントローラからPLCの市場動向です。
図2 PLC市場動向 日本電機工業会から引用

では製造業においては自動化が十分に進み効率化されている効果がでて就業者数が横ばいかというと必ずしもそういうわけでもない面もありそうです。

ものづくり白書に戻ると図3に引用した人材確保の状況の調査結果があります。これによると2016年から2018年にかけて人材確保の状況に「特に課題はない」と答えた企業は19.2%から5.2%に減少しています。一方で「大きな課題となっており、ビジネスにも影響が出ている。」と答えた企業は22.8%から35.7%に増大しています。

この結果から人材確保が課題として多くの企業に広がっていることが分かります。

ではこのように課題が顕在化するまで企業は何も手を打ってこなかったのかというとそういうわけでもなさそうです。2018年のものづくり白書を見ていきます。

 

2016年から2018年までの調査、人材確保の状況について特に課題はないは大きく減っている。
図3 人材確保の状況 2019年ものづくり白書より引用

◆2018年版ものづくり白書

人材確保対策において最も重視している取組(現状と今後)を図4に引用します。図中の青線の四角と赤線の四角は私が追記しています。青いバーグラフが現状の取組。赤いバーが今後取り組みたいものになります。2018年の白書ですので、調査結果は2017年の12月です。つまり調査自体はそれ以前のものになります。2017年時点で各社人材確保対策において最も重視している取組のNo.1は新卒採用の強化、No.2は中途採用の強化、No.3は社内のシニア、ベテラン人材の継続確保となっています。

一方で今後重視している取組は自動機やロボットの導入による自動化・省人化が倍以上伸びて新卒採用の強化に次ぐNo.2に。IT・IoT・・・生産工程の合理化もぐっと伸びて中途採用の強化に次ぐNo.4になっています。

まずはしっかりと人材を確保したうえで自動化や合理化に取り組みたいという姿勢が垣間見えます。

 

人材確保対策において最も重視している取組(現状と今後)の調査結果
図4 人材確保対策において最も重視している取組(現状と今後) 2018年ものづくり白書より引用

では各社の取組が上手くいき人材を確保して次の取組である自動化・合理化に着手がスムーズになされているかといえば、2019年のものづくり白書を見る限りそうはなっていないように見えます。製造業における就業者数は横ばいな一方で各社人材確保の課題がどんどん明るみになってきてる結果になっています。

 

さてここで2018年版では働き方改革に関して面白い提言がなされています。第1章第2節より図5に引用します。

 

2018年のものづくり白書では終身雇用の限界を思わせる文言がある。
図5 働き方改革を通じた生産性向上・人手不足対策の推進 2018年ものづくり白書より引用

赤枠部分を書き出します。

前略・・・そのすべてを自前で完結する「自前主義」は限界を迎えつつある。このような大きな変化に対し、外部人材を含めたリソースをうまく活用することが重要であり、働く人のニーズに応じて、「多様で柔軟な働き方」を選択肢として選べるようにすることが求められている。従来の「日本型雇用システム」から、より柔軟性が高く多種多様な人の能力を最大限発揮できる職場環境の整備や雇用システムの移行が期待される。

 

◆おわりに

2018年のものづくり白書は2018年5月29日に公開されました。そこでは働き方改革を切り口に「自前主義の限界」「多様で柔軟な働き方」「日本型雇用システムからの移行」を期待すると言及されています。

 

2019年のものづくり白書は2019年6月11日に公開されています。そこでは製造業における人材確保の現状と課題がありありと書かれています。

 

2019年5月7日経団連、中西会長の「制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている。」発言。

2019年5月13日にはトヨタ、豊田章男社長の「終身雇用難しい」発言。

 

さてこれは偶然でしょうか。

中西さんと豊田さんの発言がニュースになった時、私の周りも大きな話題となりました。ほとんどの皆さんは「びっくりした」と言っていました。2018年のものづくり白書に目を通していた私は、「ああそうか、そろそろ今年の白書発表の時期だな。」と思いました。

たまたま偶然だったという可能性もゼロではないとは思います。

 

前のブログはものづくり白書の公開は5月下旬~6月初旬です。1

次のブログは税理士×中小企業診断士×技術士 中小企業応援特別企画