前回の記事ではラズパイを使ったデータ取得のトラブル事例について解説しました。今回は、そもそもの目的であったデータ取得による稼動率の算出について見ていきます。
前編ではかどうりつの定義を見ていきます。具体的なデータ分析については後編で述べます。
◆かどうりつの定義
稼動率と似た言葉に可動率があります。どちらも「かどうりつ」と読みますが、特に区別するため稼動率を「かせぎどうりつ」や「かどうりつ」、可動率を「べきどうりつ」と読み分けることもあります。
さらに稼動率、稼働率(ニンベン)と書き分けることもあります。ニンベンをつけることで機械だけではなく人間が一緒にモノづくりをしていることを表します。事実、機械だけで動く現場というのは私は知りません。全自動の現場でも人の手による保全は必要です。
私ニンベンには特にこだわりはありませんので、ここではかどうりつは稼動率で統一します。可動率はべきどうりつと読むものとします。
「稼動率」で検索すると計算方法として次式がよく見られます。
【稼動率】=【実際に生産された数量】/【通常に生産できる数量】×100%
例えばサイクルタイム60秒/個(1個/min)の機械で8時間生産活動を行うと、480個(1個/min×60min×8h)が通常に生産できる量ということになります。
この機械である日の生産量が400個だったとします。このときの稼動率は次の通りです。
【稼働率】=400個/480個×100%=83.3%
稼動率83.3%という数字だけを見た場合、どのように思うでしょうか。単純に「稼動率が低い。もっと仕事取ってきても大丈夫だな。」と思うのではないでしょうか。
一方で労務費を見ると残業代が発生していたとなればどうでしょうか。「稼動率が低いのになぜ残業をやっているのだ?ムダがあるに違いない!」という方もおられるでしょう。
稼動率だけの判断では実際の現場を正しく判断することはできません。可動率を見る必要があります。可動率は機械が動くべき時間に対する実際に動いていた時間の割合のことを言います。
例えば8時間の勤務時間の内訳をみたときに次の通りだったとします。
08:30~09:00 朝礼、始業前点検
09:00~10:00 生産活動(動作中)
10:00~10:15 休憩(停止中)
10:15~12:00 生産活動(動作中)
12:00~12:45 食休(停止中)
12:45~15:00 生産活動(動作中)
15:15~15:15 休憩(停止中)
15:15~17:15 生産活動(動作中)
17:15~17:45 終業点検、終礼
定時時間は08:30~17:45で計9時間15分ですが、途中休憩を15分×2回、食休を45分挟むため、実際の労働時間としては8時間になります。
余談ですが、6時間を超えて8時間以内の労働時間の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩をとる必要があります。
さらに機械が動作していた時間はここから始業・終業それぞれ30分の時間を差し引いて7時間となります。
機械が運転状態にあったのが7時間であり、この7時間が機械が動くべき時間(可動時間)です。
7時間の動作で生産できる量は7×60=420個となります。つまり通常に生産できる量は480個ではなく420個になります。
ではこれを使って先の稼動率を計算しなおしてみます。
【稼働率】=400個/420個×100%=95.2%
稼動率が高くなりました。こちらの方がより実態に近い計算結果と言えます。しかしこれでも100%未満であり、残業対応している現場の実態を表しているとは言えません。
ここで可動率の定義を見ていきます。可動率の定義は次式です。
【可動率】=【稼動時間】/【可動時間】
稼動時間:機械が実際に動いていた時間
可動時間:機械が動くべき時間
本来は7時間フルに動くべき機械が何らかのトラブルでトータル60分停止していた場合を考えます。このときの可動率は次の通りです。
【可動率】=【7.0-1.0】/【7.0】=85.7%
可動率を考慮して(つまり設備トラブルによる停止時間を考慮して)稼動率を算出し直します。
【効率】=95.2%/85.7%=111.1%
稼動率が100%を超えてきました。この数字であれば残業が発生して当然です。
稼動率の意味が2つになり混乱のもととなるので本記事では以下のように使い分けます。
【稼動率】=【実際に生産された量】/【通常に生産できる量】×100%
最初の定義です。
【設備効率率】=【稼動率】/【可動率】
可動率を考慮した定義です。設備の停止していた時間を考慮します。
*より正確に実態を表すためには機械の性能そのものの揺らぎ(例えばサイクルタイムを60秒としていますが、実際にはシリンダー速度などにバラつきがありサイクルが遅くなることもある。)によるロス(これを性能ロスといいます。)と直行率(いわゆる良品率の中でも特に1発合格品のものの割合)とを考慮して算出する設備総合効率が使用されます。
*参考記事:設備の稼働率評価に使用される「設備総合効率」とは(外部リンクです)
また、本記事で私が定義した稼動率と可動率はいつでもどこでも当てはまるというものではありません。
大切なのは計算式を統一してその中に出てくるいくつかの用語、本記事の場合は「稼動時間」や「可動時間」など、の用語の定義を明確にしてそこから計算される結果がどういう意味をもつのかを共有することです。
長くなったので一旦ここまでで終わります。次回、実際のデータ取りから設備の改善につなげる方法を見ていきます。
前の記事はラズパイを使った稼動率の取得トラブル事例です。
次の記事は設備改善に繋がるデータ分析(後編)です。
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