はじめに
3山という数字には根拠があります。計算して確認していきます。
根拠はねじの「引張り破壊」VS「ねじ山(谷)のせん断破壊」です。ねじの強度を検討するときはねじの有効径と強度区分から引張の破壊を検討しますよね。
例えば強度区分4.8では破損応力は4×8=32kgf/mm^2=314N/mm^2となります。M6を使うとすると有効断面積は22.48mm^2になります。
よって引張り荷重Pは 314×22.48=7058.7N 加わったときに破損、つまり変形します。
また強度区分4.8では引張強度が40kgf/mm^2=392N/mm^2となります。M6の場合は392×22.48=8812.2Nの引張荷重が加わったときに破断する、つまりちぎれます。
以上はねじ本体、円筒部の破壊の話です。
ねじ山のかかりが少ないとねじの引張による円筒部の破壊よりも先にねじ山部がせん断で破壊されてしまいます。
これを計算すると必要なねじ山のかかり数が出てきます。M6までであればおよそ2山前後になります。余裕を見て3山以上を確保するようにしています。
雄(お)ねじと雌(め)ねじを同時に考えるとややこしいので雄ねじを考えます。
計算に使用するあれこれ
d :呼び径 (mm)
d1:谷径 (mm)
d2:有効径 (mm)
As:有効断面積 (mm^2)
L :ねじリード→1回転で進む距離。
ピッチともいう。(mm)
s :かみ合い山数(山)
P :ボルトに加わる外力(N)

引張り荷重によるねじ破壊の検討
ねじの破壊形態の一つとして図2に示すような引張荷重が加わったときのねじ本体の引張破壊があります。(破損応力が加わると変形、ボルトが伸びる。引張応力が加わると図のように破断する)。
おねじには呼び径に対し谷径d1(mm)と有効径d2(mm)があります。
引張荷重P(N)を加えたときの引張応力σは次の式で計算されます。
σ=P/As (N/mm^2)
ここでAsはねじの有効断面積でJIS B 1082によると有効径d2から次の式で計算されます。
As=0.7854[(d-0.9382P)]^2 (mm^2)
よって引張応力σは次の式になります。
σ=P/As=0.7854[(d-0.9382P)]^2 ①

ねじの引張荷重によるねじ山せん断の検討
ねじの破壊形態には図3に示すような引張荷重により生じるねじ山の谷部でのせん断破壊もあります。(破損応力が加わると変形、ねじ山の形状が変形してダメになる。引張応力が加わると図のように破断する)。
ねじに引張荷重が加わったときにねじ山の谷部でせん断力を受ける面積Atは次の式で計算されます。
At=π×d1×L×s(mm^2)
*谷径を基準とした周長(π×d1)×1山分の幅(1山分の幅≒ねじリードL)が1山分の面積。これにかみ合い山数sをかける。
このとき発生するせん断応力σtは次の式で計算されます。
σt=P/At=P/(π×d1×L×s)(N/mm^2) ②

引張りvsせん断
はじめにで見たように強度区分4.8、M6のねじは引張り荷重P=314×22.48=7058.7Nで変形します。
このときねじ山の係数が少ないとPが7058.7N以下で「せん断によるねじ山変形」が生じます。この条件を見ていきます。
σaを許容引張応力、σを発生する引張応力、τaを許容せん断応力、τを発生するせん断応力とします。
σ≧σaで引張破壊が発生する。
τa=0.8σa
ねじの規定ではないのが恐縮ですが、圧力容器の関して規定しているJIS B 8265 によると許容せん断応力は許容引張応力の0.8倍です。上の関係はそこからきています。
ここで、σ(引張応力)よりもτ(せん断応力)の方が大きいと、せん断破壊あるいは変形が先に起こってしまいます。
よって次の関係が成り立つ必要があります。
σ≧τ/0.8 ③
①②③式から次のようになります。
P/0.7854[(d-0.9382P)]^2≧[P/(π×d1×L×s)]/0.8
(π×d1×L×s)×0.8≧0.7854[(d-0.9382P)]^2
s≧0.7854[(d-0.9382P)]^2/[(π×d1×L×s)×0.8] ④
④式の関係からかみ合い山数が計算できます。
M1.6はs≧1.18
M6はs≧1.63
M10はs≧1.84
M24はs≧2.26
M36はs≧2.57
となります。
以上から安全率をどこまで見るか次第ですが、私は3山以上というのは基本的にt3.2程度までの薄板ものにタップをあけるときの基準として考えています。用途としては例えばアングルフレームにタップをあけてカバーをねじ止めするような場合です。このような用途では使用するサイズはせいぜいM6 までです。
それ以上大きなサイズ(機械要素の固定など、全く別の用途)となると3山以上ではなく例えば1D以上などの基準を用います。
終わりに
以上の計算はおねじを見てきましたが、雌ねじ側を考えるとどうでしょうか。たとえば雌ねじ側の材料にSS400を使った場合、その耐力(これ以上の力が加わると変形してしまう値)は板厚16mm以下で245N/mm^2です。おねじは強度区分4.8とすると320N/mm^2です。
雌ねじ側の方が弱いですよね。つまり先に見た最小ねじ山では雌ねじ側のねじ山がせん断変形する可能性があります。
よって材質とその強度によってはより多くのかみ合い数が必要になります。
材質に合わせた設計基準としてねじ深さを
1.0D ~ 2.0D以上
と定めているところもあります。
M6の場合、1.5D以上とすると、6×1.5=9㎜以上のかみ合い長さが必要ということになります。
最後にある機械メーカーさんでの基準例を書いておきます。
雌ネジ材質 かかり代
鋼 1.0D
鋳鉄 1.5D
アルミ 2.0D
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匿名 (木曜日, 10 11月 2022 17:49)
M12ボルト(ピッチ1.75)をSS400の板厚5mmのものにタップを立てて、板側の強度は十分あると業者が言っていますが、1.0D必要という事は板厚も12mm必要ではと考えますがいかがでしょうか。
管理人 (水曜日, 23 11月 2022 11:03)
匿名様
1.0Dというのはあくまで参考(そういう基準を設けているところもある。基準が適応される範囲は限定的である。)として考えてください。